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プチ家出 [さくっちょ]

さくっちょが、プチ家出をした。

さくっちょの反抗期は小学校の5年生の頃から始まった。
初めは学校で会うと不自然に知らん顔をするところから始まった。
そのうち家でも不機嫌な顔をしていることが多くなって、話しもしなくなっていき、ぶすねこに対してのあたりが強くなっていった。
それでもみーがいた時はまだ良かった。
みーが寮に入り家を出てしまってからは、喋らない、笑わない、それどころか有り余る『負』の感情をひたすらぶすねこにぶつけてくるようになった。
毎日がぶつかり稽古だ。
ぶすねこも『思春期』だというのは分かっていながら腹に据えかねることも多かった。
本気で来るなら本気で相手をしてやると思っていた。
そんな中でのこと。

プチ家出をしたのは少し前、6月の頃。
発端は夕ご飯でのこと。
ご飯が出来たのでさくっちょを呼び、テーブルを拭いてもらおうと頼んだ。
その時さくっちょがつかんだ布巾が乾いていたので、
「こっちを使って。」
と、濡らしてある布巾を手渡した。
その時さくっちょはこともあろうに、
「うるっせーな。」
と言ったのだった。
この言葉にぶすねこがきれた。
「うるさいとはどういうことだ、ただこっちの布巾を使ってくれと言っただけじゃないか。」
その時は何を言っても『糠に釘』知らん顔で黙るさくっちょにほとほと頭にきた。
その日の夕食は二人で一言も話さず、そのまま寝た。
(ちなみに、今はみーが家を出て寮に居るので、大概の日はさくっちょと二人での夕食になっている。)

翌朝。
さくっちょがふてくされた様子で聞いてきた。
「ねえ、はちまきどこ?」
数日前に体育祭があって、さくっちょははちまきを持って帰ってきていた。
洗濯かごに入っていたので洗って干したところまでは記憶があった。
でもその先の記憶は無かった。
うちでは自分の洗濯物は自分で畳んでしまうというルールがあるので、乾いた洗濯物はさくっちょに渡している。
さくっちょは受け取った洗濯物を畳まず、自分の部屋に山にしていたのを知っていたので、その中にあるだろうと思った。
それにしてもその言い方は何だ!と頭にきた。
朝からぶつかり稽古だ。
「知らないよ。あんたの部屋の洗濯物の山の中にあるんじゃない?」
と言うと、家が壊れるんじゃないかというほどの音で階段を上り、自分の部屋に入ると探し始めた。
しばらくして降りてくると、イライラマックスの態度で
「ないんだけど!!」
と言いやがった。
これでぶすねこもきれた。ぶすねこが
「しるか!困れ、困れ!いい気味だ!」
と言うとさくっちょは鬼の形相でぶすねこを睨みつけ、ガタガタと家じゅうを探し始めた。
この騒ぎに出てきたダーがさくっちょに向かい、
「お前、いいかげんにしてくれ。」
と、怒るのではなく諭すように言った。
さくっちょは鬼の形相のまま学校へ持って行くリュックを背負い、いつものように自転車に乗って出かけて行った。
その後、ぶすねこもダーも仕事に出かけた。

ぶすねこが仕事から帰ってくると、留守番電話にメッセージが録音されていた。
「こちらは〇高校のさくっちょさんの担任のNです。今日はさくっちょさんが学校へ来なかったので心配でお電話いたしました。」
血の気が引いた。
急いでさくっちょの携帯に電話をした。でも出ない。
ラインを入れた。既読にならない。
学校へ電話をした。
朝からけんかをして出て行ったこと、連絡が取れないことなどを話した。
さくっちょの先生は先生2年目で担任1年目の若い先生。
先生自身もさくっちょとラインを交換しているというので、連絡を取ってもらった。
ぶすねこはみーに電話をして状況を話し、みーからさくっちょに連絡を取ってもらった。
するとみーからの連絡にさくっちょは反応した。
みーは焦らずにちょっとずつ聞きだした。
ぶすねこはとりあえずさくっちょが無事な事にホッとした。
さくっちょはみーに説得されてその日の夜に帰ってきた。

この日さくっちょは『田舎に行きたい』と、田舎の方へ、田舎の方へと自転車を走らせ、とんでもない所まで行ってしまったらしい。
今は便利なもので、スマホで自分の位置を確認しながら帰ってこれた。
さくっちょは『田舎へ行きたい』と言ったのだけれど、結果的にみーの学校の方へと向かっていて、ダーは「みーに会いたかったのではないか」と言った。
そうかもしれないなと、ぶすねこも思った。
さくっちょにとって、みーがいなくなるという事は大きなことだったんだなぁと、改めて思った。

まぁ、無事に帰ってきてよかったけれど、色々しでかしてくれる子だなぁと、びっくり。
一人の人間を大人にするという事は、とてつもないエネルギーがいるもんなんだなぁと思う。
『思春期の扉のノブは向こう側にしかついていなくて、親は出てきてくれるのを待つしかない』って聞いていたけれど、そうなんだろうね。
今もさくっちょは出てきた感じはしないな。
たまにドアを開けているときがある気はするけど。

後日談
後日、ぶすねこが友達に「さくっちょがプチ家出をした~!!」って話したら、結構プチ家出をしている子がいるという事が判明した。
よそのおうちの子の話を聞くのも楽しかった。
そうか、そうか、思春期ってそういう物かと、参考になった。
まだしばらくはエネルギーがいりそうだなぁ。

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